下痢とは
形を保てないほど軟らかい便や、水のような便など、水分量の多い便が頻回に排出される状態で、腹痛や血便を伴うこともあります。冷えや飲み過ぎ・食べ過ぎなどで起こることもありますが、多くの消化器疾患でも現れることが多い症状です。明らかな原因がわかっていて、安静に過ごすことで改善し、繰り返さない場合にはそれほど心配ありませんが、慢性的に続く場合には疾患が原因になっている可能性があります。下痢止めを服用すると重症化するリスクのある感染性胃腸炎、難病指定されている潰瘍性大腸炎やクローン病、大腸がんなどでも下痢の症状を起こすことがあり、できるだけ早く受診して適切な治療を受ける必要がある疾患も数多くあります。軽度でも下痢が続く場合は消化器内科を受診して、原因疾患の有無を調べることが重要です。
また、下痢に嘔吐が伴って水分摂取量が不足すると脱水症状を起こす可能性があります。子どもや高齢者は脱水が進行しやすいので注意が必要です。十分な水分をとれていない場合は速やかに受診してください。
できるだけ早く受診する必要のある下痢
- 経験したことがないほど激しい下痢
- 便に血が混じっている
- 排便しても腹痛が続く
- 吐き気や嘔吐を伴う
- 同じものを食べて同じ症状を起こしている人がいる
- 時間経過により悪化してきている
- 脱水症状がある(尿が濃い、尿が出ない・少ない、のどが異常に渇くなど)
上記以外でも、突然腹痛や下痢を起こしてトイレに間に合わないかもしれないと心配になるなど、日常生活に支障が及んでいる場合も早めに消化器内科を受診してください。
下痢で受診する際のメモ
問診で、下痢がはじまった時期と頻度、腹痛の有無と痛みの内容や程度、便の状態、下痢以外の症状、普段の食習慣などについて伺いますので、事前にメモしておくと伝え忘れを防ぎ、より短時間に効果的な検査を行ってスムーズに最適な治療につながります。
下痢の種類
下痢は、一時的に起こる急性下痢と、下痢を長期間繰り返す慢性下痢に分けられ、そこからさらに2種類のタイプに分けられます。
急性下痢
浸透圧性下痢
過剰なアルコール摂取、高脂肪食などによって腸への負担が増え、吸収機能が低下して便に含まれる水分量が増加し、下痢の症状を起こします。
分泌性下痢
食中毒や食あたり、食物アレルギー、薬の副作用などによって腸粘膜が障害され、分泌液が過剰になって下痢を生じています。
慢性下痢
蠕動運動性下痢
消化管の内容物を先に送る蠕動運動が亢進し、十分に水分を吸収できない状態で排便が起こって生じる下痢です。
滲出性下痢
腸に炎症があると、粘膜から血液成分や細胞内の液体が腸管内に染み出したり、水分吸収機能が低下することで便の水分量が増えたりすることで下痢になります。潰瘍性大腸炎やクローン病などでは、このタイプの下痢を生じます。
下痢になった際の対処法
食事
下痢の場合、絶食して腸管の安静を保つ、消化しやすいものを少量だけとるなどの対処法が有効です。ただし、下痢は脱水症状を起こしやすい状態ですので、水分は十分にとるようにしてください。
食品や調理方法は、消化しやすさを考慮する必要があり、高脂肪食や食物繊維は控えて、できるだけ軟らかく調理します。白粥や卵粥、煮込みうどん、食物繊維や脂肪分の少ない鍋料理、湯豆腐などが適しています。また、下痢が改善してもしばらくは消化のよいものをとり、食べ過ぎないようにしてください。
胃酸の分泌を亢進新させてしまう食品も避けることが重要です。唐辛子・カフェイン・アルコールなど刺激の強いもの、高脂肪食、柑橘類などは控えましょう。また、味の濃いものもとり過ぎないようにしてください。
注意するポイント
水分と電解質の補給
下痢の症状があると脱水症状や電解質異常を起こすリスクが高く危険です。経口補水液、スポーツ飲料、白湯などを少しずつこまめに飲むことが重要です。牛乳は腸への刺激が強いので避けてください。嘔吐と下痢があって十分な水分補給ができない場合は早めに受診してください。
市販の下痢止め服用は危険なことも
食中毒や食あたりなど、感染性の下痢の場合、下痢は増殖した病原体や病原体が出す毒素の速やかな排出に役立ちます。下痢止めを服用すると、増加した病原体や毒素の作用で重症化してしまうことがありますので、下痢の際には安易な市販の下痢止め服用は危険です。感染が疑われる場合には、服薬せずに消化器内科の診察を受けてください。
軽い下痢でも長く続く、
繰り返す場合は受診を
下痢症状が慢性的に続いている場合、疾患の症状として生じている可能性が高い状態です。また、原因疾患がある場合、便秘と下痢を繰り返したり、他の症状を伴ったりするケースも多いです。がんや難病指定された疾患など、早期治療が必要な病気が隠れていることもありますので、消化器内科を受診して原因疾患の有無を確かめてください。
下痢症状を起こす疾患
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎を起こす病原体は数多くありますが、重篤な症状を起こしやすいのはノロウイルスや病原性大腸菌です。感染性胃腸炎では激しい下痢や嘔吐を起こしやすいのですが、下痢止めや吐き気止めの服用は禁忌です。感染性胃腸炎の下痢や嘔吐は、増殖した病原体や病原体の出す毒素の速やかな排出に役立っており、薬で嘔吐や下痢を止めてしまうと重篤な症状を起こすことがあります。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)
腹痛・下痢・血便などの症状を起こし、症状がある時期とない時期を繰り返す慢性疾患です。進行すると重篤な合併症の発症や、大腸がん発生リスクが上昇してしまいますので、症状のない時にも適切な治療を続ける必要がある病気です。難病指定されていますが、適切な治療でコントロールできれば良好な状態を長く維持することも可能です。
虚血性腸炎
大腸に酸素や栄養を送る血流が動脈硬化などで滞り、大腸粘膜が血液不足を起こして炎症や潰瘍を生じる疾患です。多くの場合は絶食による腸管の安静によって回復しますが、悪化すると腸管が壊死してしまうこともあり、その場合は緊急手術が必要になります。主な症状は、左腹部から下腹部にかけて腹痛、下痢や血便です。動脈硬化によって虚血性腸炎が生じている場合、脳卒中や心筋梗塞のリスクも高い状態ですので、原因疾患の治療も必要です。
大腸がん
早期大腸がんは自覚症状が乏しいのですが、進行すると便秘と下痢を繰り返す症状や血便を生じることがあります。大腸がんが巨大化し、便の通過を妨げることで、こうした症状が起こります。
過敏性腸症候群(IBS)
腹痛を伴う下痢や便秘が主な症状ですが、腹部膨満感などガスが増えて症状を起こすタイプもあります。炎症など器質的な問題はありませんが、ストレスなどによって消化管のコントロールを行っている自律神経のバランスが崩れて生じる消化管の機能不全や知覚過敏などが関与して生じていると考えられています。
慢性膵炎
慢性膵炎は、進行すると消化酵素が漏れ出して多臓器不全を起こし、命にもかかわる可能性がある病気です。慢性膵炎の症状には、腹痛、体重減少などがあり、消化酵素の分泌低下によって脂肪が消化しにくくなって液状の白い脂肪便を生じることもあります。
検査
問診で症状や体調などについて伺い、大腸カメラ検査、超音波(エコー)検査、血液検査などから必要な検査を行って診断します。
当院では高度な観察を行える機能を搭載した内視鏡機器を導入し、専門医が豊富な経験を生かして精度の高い検査を行っています。鎮静剤を使って楽に受けていただくことも可能です。粘膜の状態を直接詳細に観察できます。組織採取を行って数多くの疾患の確定診断が可能であり、特に早期大腸がんの発見に役立ちます。
超音波(エコー)検査では、大腸カメラ検査では観察できない肝臓、膵臓、胆のう、腎臓の状態を調べることができます。血液検査では、炎症や貧血の有無などを確かめることができます。
当院では、問診や検査結果から総合的に判断して診断し、原因や状態に合わせた治療につなげています。