炎症性腸疾患は、原因が分かっておらず根本的な治療が難しいため、腸の粘膜に起こった炎症を抑え込み、腸を普通の状態に戻すこと(=寛解)が治療の目標になります。
ただ、炎症性腸疾患は寛解・再燃を繰り返すことも特徴の一つであり、寛解になったからといって治療終了ではなく、寛解期を維持してくため薬を続けていき、病気をしっかりとコントロールしていく必要があります。
治療法は、潰瘍性大腸炎とクローン病で異なります。
潰瘍性大腸炎は直腸から口側に広がっていきます。病気の広がりの範囲により3タイプに分かれ、また重症度によって軽症・中等症・重症に分けることが出来、治療法が変わってきます。
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潰瘍性大腸炎は、病変範囲により、
①病変が直腸に限局している”直腸炎型”
②病変が脾彎曲部より肛門側に限局している”左側大腸炎型”
③病変が脾彎曲部を超えて口側に広がっている”全大腸炎型”
の3つに大きく分けられます。
【潰瘍性大腸炎の重症度】
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1~6の項目の程度によって、”軽症”、”中等症”、”重症”、”劇症”に分類されます。
重症のなかでも、下記を満たす重篤なものは「劇症」に分類されます。
①15回/日以上の血性下痢が続いている
②38℃以上の発熱
③10,000/m㎥以上の白血球増多
④強い腹痛がある
軽症の方は5ASA製剤(後述)の内服や直腸炎型の方には座薬・注腸を用い、基本的に食事の制限はありません。
悪化した場合や治療に反応がない場合は、免疫を抑える内服薬の追加や血球除去治療・生物学的製剤の投与を行います。
重症の場合は入院しての絶食の上、強力な治療がが必要になります。
また、最近では、便移植といった新しい治療や漢方薬による治験も行われており、結果が待たれます。
当院で行っている治療としては下記のようなものがあります。
ご本人の潰瘍性大腸炎の範囲・重症度と、治療による副作用などを考慮し、どの治療を選択するかを患者さんと相談しながら一緒に考えていきます。
[ 5-アミノサリチルサン(5-ASA)製剤 ]
潰瘍性大腸炎の治療のベースとなる薬です。大腸の粘膜に直接作用して炎症を抑えます。
軽症から中等症の潰瘍性大腸炎の半数以上の方がこの薬の内服のみで寛解導入が可能です。
ごく稀に発熱などのアレルギー反応がでますが、他の薬剤に比べ副作用があまりないのも特徴です。
炎症の場所がお尻から近い直腸付近までに限局している直腸炎型には、座薬や注腸療法を行います。
[ 免疫抑制剤 ]
炎症を起こしている免疫細胞を抑える薬です。非常にゆっくり効いてくる薬で1-2か月して効果が出始めます。
副作用としては、骨髄抑制、肝機能障害、膵炎、消化器症状(吐き気など)、脱毛、などがあります。
それらのチェックのため、内服開始後しばらくは定期的な血液検査を行います。
[ ステロイド ]
こちらも免疫細胞を抑え炎症を落ち着ける作用があります。効果は迅速で、すぐに効いてきますが、その分副作用も多彩です。
ただ、副作用はあっても、炎症が強く迅速に寛解導入を目指す場合には必要になってきます。
ステロイドには寛解を維持する効果はないので、寛解導入後は速やかに減量し最終的には中止します。
先に記載したように、潰瘍性大腸炎は免疫細胞である白血球などの血球成分が、腸自体や腸内細菌を敵と誤認し攻撃してしまい、腸に慢性的な炎症をおこします。
血球成分除去治療は、この血液中の白血球などの成分を取り除き、炎症を抑える治療法です。
血液の一部を体外へ取り出し、フィルター(アダカラム)を通すことで活性化した白血球を取り除いた後、再び体内に戻します、その後 血液を体内に戻します。
1回約60分の治療で、潰瘍性大腸炎では週に2回、計10回を行います。
この検査はステロイドと同等以上の効果が期待でき、かつ安全性が高いのが特徴です。(薬と違うので副作用がほぼありません。)
また、ステロイドを使用していない方が効果が出やすい傾向があるため、当院の方針としては、ステロイド投与前に先行して行うことが多いです。
ただ、自宅ではできないのでクリニックに来院する必要があります。当院では土日も対応し、平日に時間がとりにくい方にも受けて頂きやすい環境を整えております。
「TNFα」という炎症反応に関与する生体内物質の働きを抑える製剤です。
「TNFα」はもともと人の身体に存在するものですが、炎症性腸疾患では異常に増加しており、炎症の場で中心的に働いていると考えられています。
2016年の段階では、点滴製剤(レミケード)と皮下注射(ヒュミラ)の2種類があります。
いずれも免疫を強力に抑えることができるので効果も期待できるのですが、副作用として感染に弱くなるといったデメリットもあります。
そのため体内に結核やB型肝炎などがある場合は再燃の可能性があり、治療導入前にそのような感染がないかをきちんと調べた上で行います。
潰瘍性大腸炎にある種の漢方薬が効果があるということが昔から言われております。
現在(2016年)治験を行っている漢方薬もありますが、はっきりと効くというデータはないため、現時点ではあくまで補助治療といった位置づけになります。
潰瘍性大腸炎と異なり、小腸に病変があるクローン病の場合は食事制限が必要になってきます。
軽症の場合は食事療法と5ASA製剤にて治療を行いますが、増悪した場合はステロイドや血球除去治療・生物学的製剤の投与を行います。
重症化した場合は入院しての絶食・点滴が必要になります。
潰瘍性大腸炎・クローン病には「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づく指定難病として、長期の療養による医療費の経済的負担を支援する難病医療費補助制度があります。
医療助成が受けられるのは、潰瘍性大腸炎の患者さんで重症度が中等度以上の方、クローン病の患者さんではIOIBDという重症度スコアが2点以上の方となります。
この基準に当てはまらない患者さんでも次の2つの場合は助成の対象となります。
①高額な医療費を支払っている方(指定難病に関わる医療費の月額総額が33,330円を超える月が年間3回以上)
②2014年までの制度で助成を受けられていて、新制度の開始にあたって更新の手続きをされた方(既認定者と言い、2017年12月31日までの暫定措置になります。)
医療費助成が認定された方の医療費の自己負担額は2割となります。
世帯の所得に応じて自己負担額の上限が定められており、それを超えた医療費は公費で助成されます。
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①診断書(臨床個人調査書)と申請書を都のホームページからダウンロード(潰瘍性大腸炎・クローン病)、または保健所窓口でうけとる。
②難病指定医が診断書(臨床個人調査書)を記載 ※当院院長は難病指定医なので記載が可能です。
③必要書類をそろえて、保健所の窓口へ提出
申請時に必要な書類
1)診断書(臨床調査個人票)
2)申請書(医療費支給認定申請書)
3)住民票
4)市町村民税(非)課税証明書
5)保険証の写し
④都で審査
⑤認定されると医療受給者証が交付されます。
[ 定 義 ]
機能性消化管障害の疾患概念のなかで、症状の原因となるような器質的、全身的、代謝性の疾患がないにもかかわらず、胃十二指腸に由来すると思われる症状が慢性的に生じているもので、慢性的にディスペプシア症状を有する状態(アジアの定義)であり、症状によって定義される疾患である食事に関連する症状として、胃もたれ、摂食早期の飽満感などがあり、食事と関連ないものとして、心窩部痛、心窩部しゃく熱感などがある。具体的には、胃がわるい、胃が重い,胃を感じる、胃が引っ張られる、おいしく食べれない、などの症状として現れる。2014年にピロリ菌除菌6-12ヶ月後、症状が消失または改善している場合、ピロリ菌関連ディスペプシアと定義されている
[ 病 型 ]
食後愁訴症候群と心窩部痛症候群の2つに分類される。
[ 原 因 ]
胃排出能の遅延、噴門部適応性弛緩能の低下 胃や小腸の内臓知覚の異常、胃酸分泌の異常(亢進あるいは低下)、胃十二指腸運動機能異常(十二指腸胃逆流現象など)、ピロリ感染など細菌やウイルス感染による胃粘膜の炎症、サルモネラ感染などの既往(十二指腸が責任病巣)、心因性の因子(特に不安や虐待など)、遺伝的素因などがある。
[ 治 療 ]
食事療法 心理療法 薬物療法(漢方薬、抗うつ・抗不安薬、酸分泌抑制薬、防御因子増強薬、消化管作用改善薬)
[ 定 義 ]
機能性消化管障害の疾患概念のなかで、腹痛と便通異常が慢性的に持続する疾患で、一般的には直腸出血をみない。主要文明国の人口の10~15%の頻度で発症するとされる。
[ 病態生理 ]
中枢機能と消化管機能の関連が重視されている。すなわち、消化管の運動異常(大腸や小腸の運動異常,ストレスや食事で誘発される)、消化管知覚過敏(痛覚の程度が健常人より強い)心理的異常( 抑うつ,不安など)、Corticotropin-releasing hormone(CRH)の関与、心理的異常に関連するペプチド、粘膜炎症との関連(感染腸炎後にIBSを発症する)
[ 便秘型(IBS-C) ]
硬便または兎糞状便が25%以上あり,軟便(泥状便)または水様便が25%未満のもの
[ 下痢型(IBS-D) ]
軟便(泥状便)または水様便が25%以上あり,硬便または兎糞状便が25%未満のもの
[ 混合型(IBS-M) ]
硬便または兎糞状便が25%以上あり,軟便(泥状便)または水様便も25%以上のもの
[ 分類不能型IBS ]
便性状異常の基準がIBS-C,D,Mのいずれも満たさないもの
[ 治 療 ]
原則的に優勢な症状に対して食事指導・生活習慣改善をうながす。段階的にガイドラインが決められている。
薬物(抗コリン剤、下剤、乳酸菌製剤、高分子重合体、消化管運動調節剤、セロトニン5-HT受容体拮抗薬、抗うつ・抗不安剤)心理療法 認知行動療法、絶食療法、催眠療法など
[ 概念・頻度 ]
主として粘膜を侵し、再燃と寛解を繰り返す原因不明の慢性疾患であるが、最近免疫異常が注目されている。日本では、1970年以降患者が増加しており、現在その患者数はアメリカに次いで2位となっている。世界的にみると白人に多く、発展途上国では少ない喫煙は発症のリスクを下げるとされている。
[ 発症年齢 ]
15-30才と若年層にみられ、50-70才にも発症のピークがある。
[ 症 状 ]
下痢・下血・腹痛・発熱など 多くの症例で、悪くなってくると夜間に排便をみる頻度が増える。
[ 臨床的分類 ]
軽症 / 中等症 / 重症 / 劇症
[ 病変の拡がりから見た分類 ]
直腸炎 / 左結腸型 / 全結腸型 / 右側 / 区域型(左側と全結腸型で全体の70%以上を占める)
[ 臨床経過からみた分類 ]
初回発作型 / 再燃寛解型 / 慢性持続型 / 急性電撃型
[ 腸管外合併症 ]
関節炎・皮膚病変・虹彩炎・原発性硬化性胆管炎などをみる
[ 治 療 ]
薬物療法急性期(緩解導入)と慢性期(緩解維持)食事療法、支持療法(精神的支援など)の3つが治療の基本となる。
具体的な治療としては、5-ASA、副腎皮質ステロイドホルモン、白血球除去療法、免疫抑制剤 生物学的製剤などがある。内科的治療の限界を見た場合は外科的治療が選択される。
[ 概念・頻度 ]
原因不明で消化管のどの部も侵し、好発部位は、回盲部である。浮腫やびらん、縦走潰瘍などの病変をみるが、病変は消化管を全層性に侵す。現在40,000人以上は罹患していると言われ、発症年齢は10-20才と圧倒的に若年者が多い。人口10万人あたり0.51といわれ、UCの1.95に比し少ない。
[ 病 型 ]
小腸型 小腸・大腸型、大腸型とあるが、回盲部に病変が多い。
[ 症 状 ]
腹痛・下痢・体重減少・発熱・全身倦怠・肛門部病変(痔ろう)などであるが、関節炎、虹彩炎、肝障害などの全身性合併症を引き起こす。消化管の全層炎症であるがゆえ、いわゆる臓器間での瘻孔形成をみる。
[ 治 療 ]
5-ASA製剤、経腸栄養療法、副腎皮質ステロイドホルモン免疫抑制剤、白血球除去療法、抗生剤などが上げられる。しかし、内科的治療の限界を感じた場合、ためらわず外科的手術が必要となる。ただし、とくに小腸型において、再発率が高いとされている。