過敏性腸症候群(IBS)とは
大腸粘膜に炎症や潰瘍、がんなどの器質的な病変はありませんが、慢性的な腹痛に下痢や便秘といった便通異常や膨満感などの症状が続く疾患です。腸の機能的な問題が原因となって症状を起こしていると考えられており、緊張や不安をはじめとしたストレスをきっかけに症状を起こすことがあります。消化管の機能は自律神経がコントロールしているため、ストレスによって自律神経のバランスが崩れることで機能不全を起こしやすくなります。こうしたことから、治療には生活習慣やストレスの対処法などを見直すことも重要になります。
症状
過敏性腸症候群は、主な症状から下痢型・便秘型・混合型に分けられます。
下痢型
典型的な症状には、突然強い腹痛を起こし、その後激しい下痢になり、排便後は一時的に症状が治まるというものがあります。過度の緊張や不安からこうした症状を起こすことがあり、1日に何度か症状が現れることもあります。トイレに間に合わないのではという不安がストレスになって悪化することも多く、満員電車や会議、面接、テストなどへの苦手意識が芽生えて外出が億劫になってしまうケースもあります。日常生活へ深刻な影響を及ぼさないためにも、早めに適切な治療を受けることをお勧めしています。
便秘型
腹痛を伴う慢性的な便秘になり、強くいきんでも小さくコロコロしたウサギの糞のような便しか出ず、残便感があります。腸の機能不全によって生じており、痔や大腸疾患の発症や悪化のリスクになります。便秘体質だからと諦めている方が実際には過敏性腸症候群ということはよくあります。便秘を繰り返す場合には消化器内科を受診して適切な治療につなげましょう。
混合型
下痢と便秘を交互に繰り返すタイプです。
その他
おなかが張る、おなかが鳴る音が大きい、おならが漏れてしまうなど、下痢や便秘といった便通異常ではない症状を慢性的に起こすタイプです。
原因
食事内容や食習慣、過度の緊張・不安・ストレス、蠕動運動の亢進や低下といった機能不全、遺伝的要因など、多くの原因が関与して発症していると考えられています。消化管の機能は自律神経にコントロールされていることから、自律神経のバランスを乱すストレスなどによって機能不全を起こし、発症や悪化につながります。
診断
問診で症状の内容やはじまった時期、症状の変化、他の疾患や服用している薬、お悩みの症状などについてくわしく伺います。便通異常がある場合、排便回数や便の状態、痛みなどの有無や内容、発症のきっかけ、生活習慣やライフスタイルなどもくわしくお聞きしています。
過敏性腸症候群の症状は他の大腸疾患でも生じますので、器質的病変がないか大腸カメラ検査で調べます。他に血液検査などを行うこともあります。病変がない場合には過敏性腸症候群が疑われますので、RomeIV基準という国際的な基準に則って診断します。
RomeIV基準
血液検査や大腸カメラ検査で問題がないことが確認されたら、RomeIV基準という国際的な過敏性腸症候群の診断基準に則って医師が診断します。
- 症状が過去6か月以前からある。
- 過去3か月では少なくとも週1日以上の症状が繰り返し起こっており、下記の2項目以上にあてはまる。
- 症状と排便に関連性がある
- 排便頻度の変化が生じる
- 排便形状の変化が生じる
治療
食生活の改善
暴飲暴食や大食い、カフェインや香辛料の過剰摂取を避けるなど、食生活を見直します。食物繊維をしっかりとり、高脂肪のものを控え、栄養バランスに配慮した食事を1日3食、できるだけ決まった時間にとるよう心がけましょう。
生活習慣の改善
休息や睡眠をしっかりとって、適度な運動を習慣付けましょう。激しい運動は必要なく、できるだけ歩く・階段を使うなど日常に取り入れやすい運動をお勧めしています。毎日ゆっくりバスタブに浸かるなどリラックスできる時間をつくり、趣味やスポーツなど熱中できるスケジュールを定期的に入れましょう。
薬物療法
症状やお悩みの内容、体質、ライフスタイル、服用している薬などを考慮して処方しています。服薬は医師の指示に従って行うようにしてください。症状や状態は変化しますので、再診時にはくわしくお話を伺って最適な処方を調整しています。様々な効果や作用を持った治療薬があり、新しい作用を持った薬も登場していますので、気になることやご希望がありましたら気軽にご相談ください。
過敏性腸症候群で主に用いられる薬
- 消化管機能調整薬(蠕動運動を整えます)
- 便の水分バランスを調整する薬
- 下痢症状の改善を図る薬・予兆があった際に服用しその後の症状を抑える薬
- 便秘を解消するための薬
- 抗コリン薬(腹痛を緩和します)
- 体質や症状に合わせた漢方薬
- 乳酸菌などのプロバイオティクス(腸内フローラを整えます)